AUTOMOBILE COUNSIL 2019
4月の初めに、マツダ/ユーノスロードスターのプロトタイプを見にオートモビルカウンシル2019まで行ってきました。
今年は「ユーノス」ロードスターの初代 NA6CE が発売されてから30周年ということでいろいろなイベントがあるのですが、これもその一環ということで展示されたのでしょう。開発中モデルが保存されていること自体が驚きですが、その実物を見る機会もなかなか無いと思うので、幕張まで行って舐めるように見てきました。
ロードスターのプロトタイプとは
ロードスターのプロトタイプとは、初代 NA6CE の発売された1989年9月からさかのぼることちょうど4年、1985年9月に作成されたものです。この時点ではロードスターは正式な開発プロジェクトとはなっておらず、経営陣にLWS(ライトウェイトスポーツ)の魅力を訴える役割であったようです。
書籍で語られるプロトタイプ
ロードスターのファンなら必携と言っても良い書籍に「マツダ/ユーノスロードスター 日本製ライトウェイトスポーツカーの開発物語」があります。
マツダ/ユーノス・ロードスター―日本製ライトウェイトスポーツカーの開発物語
- 作者: 平井敏彦,小早川隆治
- 出版社/メーカー: 三樹書房
- 発売日: 2003/01
- メディア: 単行本
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この中に書かれているプロトタイプのエピソードは、マツダの福田デザイン本部長、デザイナーのトム俣野氏など当時の関係者から繰り返し語られ、半ば伝説となっているものです。
85年の9月、英国で出来た自走モデルをアメリカ経由で広島に送ることになった。アメリカの空の下での確認が目的だったが、せっかくの機会なのでどこかで走らせてみようという事になった。
場所はサンタバーバラが選ばれた。ツアー・コンダクターは土地勘のあるMNAOのエンジニア、ノーマン・ギャレットがかって出た。その朝、車はトレーラーに積まれ何事もなかったかのように出発していったのを昨日のように覚えているから不思議なものだ。 後の顛末はよく知られている通りで、車をトレーラーから下ろすや否やたちまち人垣ができ、車は追いかけてくるし、見る人見る人からどこのメーカーのクルマか、いつ出るのか、値段はいくらか、今すぐにでも売って欲しいと声をかけられることは無数。
極めつけはマツダと判るはずが無いようにしていたのに“写真を撮った”、これを雑誌社に売り込むとの電話。「そんな事をするとこのプロジェクトは潰れてしまう、せっかくのオープンカーも日の目を見ない結果になる。むしろその写真を10年後に売り込んだ方が高く売れる」といった妙な切り返しに相手も納得してしまったところが変である。
しかし、後から考えるとこの一日の出来事がこの車のすべてを決めたような気がする。 この日の結果は瞬時に本社に伝わっていた。PP&Pの全てのメンバーがニンマリしたのは言うに及ばない。
書籍にはサンタバーバラの街を走るプロトタイプの写真も載っていますが、会場ではこの場面のビデオが繰り返し放映されていました。カラーでしかも動画だったのにうっかり写真を撮るのを忘れてました。今思えばこれは痛恨のミス…!
ちなみに、この書籍にはプロトタイプ(1台目デザイン)、2台目デザイン、3台目デザインが並んだカラー写真が載っています。 だんだん市販モデルに近づいていくのがわかって面白いです。
トム俣野氏のインタビュー
当時のエピソードがこのサイトでデザイナーのトム俣野氏から語られています。
反響はすごくて、ついには「俺のベンツの鍵を渡すから、お前の車の鍵をくれ」という人まで出てくる始末。
また、サイトにはカラー写真も載っているのですがそのうち1枚を見ると屋根がハードトップぽいんですよね。プロトタイプはソフトトップの幌を手でパチパチはめると聞いたのですが、ハードトップも用意されていたのでしょうか。
これはちょっとした謎です。
福田氏(当時のマツダデザイン本部長)の直接レクチャー
ここからは、ロードスターのプロトタイプを写真で紹介…と思いましたが長くなりそうなので次回にして、 AUTOMOBILE COUNSIL 2019 での楽しいエピソードを紹介しておきます。
プロトタイプの写真を撮りつつ、サンタバーバラの街を走るプロトタイプのビデオを見ていると、「これをサンタバーバラに持ってっては知らせたら、子供が集まってきて慌てて移動したんや」 と話しかけてきたハンチング帽のおじさんが。
えらい詳しい人だなーと思って聞いていると、「自分運転したんやけど80km/hは普通に出た」
って、えっ開発中の車を運転するってことはつまり 「デザイナーの福田です」
なんと、プロトタイプを目の前にして実際に開発していた人の貴重なお話が聞けました。
サンタバーバラの試走について
ビデオを見ながら「ショッピングセンターに行ったけど人が集まってきたんで慌てて逃げ出したんだ」 「それで民家の横に停めたんだけど、ほらこの場面、主人が出てきてこれはなんだ、売ってくれって言われてな」
プロトタイプのボンネットの膨らみ(バルジ)が左右に2個ある点について
「正面から見てみ、運転席、助手席とラインが合わせて会ってドライビング時に車の向きが分かるようにしてある」「市販車では結局(エンジン)ヘッドにクリアランスが必要だったから真ん中が膨らんでる」
市販車ではボンネットの真ん中のバルジの話は聞いたことあったのですが、プロトタイプではそうなっておらず、プロトタイプの方がむしろ理想通りのデザインになっています。 想像ですが、市販車では車高を下げたためと思われます。
ちなみに、マツダのスポーツカーでは常に、出来る限りボンネットの中央をへこませ、左右のフェンダーを上げてドライバーからタイヤの位置を明確化しようとする試みが行われています。
実際、ロードスターでも2代目NBでは左右のフェンダーがほんのり盛り上がっており、同時期のRX-7(FD)も同様です。3台目NCやRX-8ではフェンダーにしっかりラインが入っています。マツダ伝統のロータリーエンジンはエンジンが小さくなるためボンネットが低くできることは大きなメリットとされています。
プロトタイプの中身について
「エンジンはファミリアバンのもの。ファミリアはFFだけどファミリアバンはFRだったので」「イギリスのメーカーに作ってもらったんだが、自分で運転した時は80km/hは普通に出た」
サスペンションはRX-7(SA型)だと聞いた気がしますが、記憶があいまいです。シャシーがSAだと聞いたかもしれません。
幌のカバーについて
「カバーを持ち上げて幌を取り出す仕組み。市販車でも付けたかったけど取り出した幌をボタンでポチポチ留めなくてはいけないので(断念した)」 「まあこれは開発のためのプレゼン用だな」
AUTOMOBILE COUNSIL 2019 でのトークショー
この日、マツダの開発者の方々のトークイベントも予定されており、始まるまでのそのため会場をぶらぶらされていたようです。よくよく見ると福田さんのほか、貴島孝雄さん(NB、NC、RX-7の開発主査)、中山雅さん(4代目NDチーフデザイナー、開発主査)もいらっしゃいました。
トークショーは先着順だったので、全力で先頭に並びましたw
プロトタイプの写真紹介、続きます。